昔は自分が亡くなった後のことを考えるのは縁起が悪いと言って避けることが多かったのですが、最近は日本人の死生観も変わってきて、亡くなる前に亡くなった時のことを考えて事前にいろいろな準備をすることが一般的になってきました。
むしろそれをした方が、残りの人生を有意義に過ごせるという考え方さえあります。
その終活の1つが生前整理です。しかし生前整理と言われても何をすればよいのか戸惑うことも多いでしょう。
今回の記事では、生前整理は何をすればよいいのかということを詳細に解説します。
生前整理とは?
まず生前整理とは何を指すのでしょうか。
生前整理とは?遺品整理の違い
そもそも終活とは自分が亡くなることに向かって行うあらゆる準備のことを指しますが、生前整理とはその中の1つです。
具体的には、自分にまつわりあらゆる物品、金融資産、物品などを整理・処分し、自分の死後に遺族が困らない状態にしておくことです。
似たような言葉に老前整理、遺品整理というものがあり、内容は若干異なります。
まず生前整理とは、本人が、家族、親族が整理に困らないように自分で財産問題を解決や物品の処分をしておくことです。
これに対して遺品整理は故人が亡くなった後に、遺族が相続などの手続きを行い、遺品を処分、整理することです。
また最近は老前整理という言葉も言われています。生前整理は遺族の負担を減らすことを念頭に置いているのに対し、老前整理は老後の自分の生活を快適にするという意味合いが強くなります。
生前整理で大切なこと
生前整理で大切なのは、遺族に死後の手間をかけないようにしておくことです。
特に問題になるのは、遺品の処分と相続の2つです。
この2つにいては自分の意思をはっきりとさせ、遺族にわかるようにしておきましょう。
生前整理の始め方・進め方
では生前整理の始め方と進め方はどのように考えたらよいのでしょうか。
生前整理はいつから始める?
生前整理を始めるのは元気な時です。思い立ったら始めましょう。
生前整理は意外にも体力が必要です。
加えて、要・不要を分別する判断力も大切です。
一般的に、体力と判断力ともに年を重ねるごとに衰えていきます。
思い立ったらできるだけ早いうちに始めましょう。
なお、 不用品の処分は早いうちから始めるに越したことはないのですが、財産については一度整理した後も変更なあるかもしれません。
なので、財産目録の作成はパソコンで作ることをお勧めします。
2019年の1月、自筆証書遺言に関する法律が改正され、遺言書に付ける財産目録は自筆でなくても構わないということになりました。
パソコンで作っておけば簡単に修正できるので、留意しましょう。
生前整理の進め方とやることリスト
では生前整理はどのように進めたらよいのでしょうか。
具体的に生前整理の内容は以下の通りなので、自分のできるところからコツコツ始めましょう。
「いる」「いらない」「保留」の3つに分別する
故人が亡くなって1番困ることの1つは遺品の処分です。
遺族にとってはどれを残すかの判断もできませんし、加えて不要品の処分自体も大変です。
ですから生前整理としてまず行うのは、今持っているものを必要なものと不要なものに分別し、不要品を捨てることです。
どこから手を付けるかというと、まずは洋服や本、書類からにしましょう。
しかし、今後不要だけれど捨てるに忍びないというものも出るかもしれません。その時には、現時点ですぐには捨てず「保留箱」に入れ、「1年間使わなかったら捨てる」「死後に捨ててもらう」などと決めておけば良いでしょう。
貴重品は1か所にまとめる
また故人が亡くなって遺族が困るのは、預金通帳などの金融資産に関する書類、生命保険などの証書、年金手帳、実印や銀行印などを探すことです。
財産を相続するために必要なものがどこにしまってあるのか、わからない場合です。ですからできればそれらは1か所にまとめておきましょう。
ただし通帳と印鑑を一緒に保管するのは、防犯上問題がありますから、印鑑だけでは別の場所にまとめて保管しておいた方が無難です。
財産目録を作る
同じく相続時に遺族にとって大変なのは、いったい財産がどこにいくらあるのかを網羅して調べることです。
そしてその中には、金融資産だけではなく借金も入ります。
これらが判明しないと相続できません。
ですから、どの銀行のどの口座にいくら財産があるのか、どの会社の株券を何株持っているのか、どこからいくら借金があるのかということをリスト化しておきましょう。
以前の法律では、遺言としては手書きの財産目録しか通用しませんでしたが、法律が改正され表計算ソフトなどで作成したものでも通用するようになったので、1度作成し、年に1回更新させるのがベストです。
エンディングノートを書く
エンディングノートとは、自分のプロフィールや遺言には書かない、残された遺族へのメッセージ、希望する葬儀と埋葬の方法、葬儀に呼ぶ人のリストなどを記載して遺族に残す書類です。
法的に通用する遺言書とは異なりあくまで故人の意思を伝えるものですが、これがあれば遺族は故人の遺志を勘案して亡くなった後の手続きを行ってくれます。
遺言書を作成する
生前整理のゴールの1つは「遺言書を作る」ことです。
不用品を処分し、財産目録を作るのは、遺族に何を相続させるかというのを決めるための準備段階です。
ただし気を付けなければならないのは、遺言書は法的に効力のあるものでなければ意味がないということです。
単に自分の意思を示しただけでは、それはエンディングノートと変わりません。相続される側の行動を規定し、トラブルが起こった際にはそれを裁判所が解決するための証拠とできるものが遺言書ですので、遺言書は法律上有効なものにしておきましょう。
遺言書を法的に有効なものにするためには、以下のような方法があります。
1つは自分ですべて手書きで作成し、自筆で署名と記入した年月日を書いて封筒に入れ、封をしておくことです。表には遺言書と明記しましょう。
しかしこの場合も記載内容が法的に有効かどうかという問題が発生します。
せっかく書いても、それは法律では必ずしも有効にならない場合もあるのです。
そのような遺言書の不備を避けるためには遺言書を「公正証書」で作成しましょう。
これは作成した遺言書が法的に正しいかどうかを公証人が確認し、正しければその写しを公証役場で保管してくれて、必要な場合に、法的に有効だという証明したうえで提示してくれるシステムです。
公正証書での遺言書は自分で作るのは大変難しいので、行政書士、司法書士、弁護士などに依頼するのがおすすめです。どの資格を持っている人に頼むかによって料金は変わりますが、だいたい10万円以内です。
最も安い方法は行政書士に頼むことです。
一人暮らしの生前整理のポイント
家族と一緒に暮らしていて生前整理を行う場合は、相談相手もいますし、この一緒に住んでいる人のために行うのだと考えれば、生前整理をする時にも力が入ります。
しかし一人暮らしで生前整理を行う場合は、なかなかそうはいかず、ずるずると日にちだけが経ってしまう危険性があります。
そのような事態を避けるためには、以下のようなポイントを意識しましょう。
1度にしないで1つづつ行う
生前整理は短期間で一気に行うのではなく、自分のペースでゆっくり行うことが大切です。
古い書類が出てきたらそれを読んで思い出に浸ることもあるかもしれませんが、それで構いません。
生前整理は、自分の人生を振り返る機会でもあるのです。
相談相手を作る
生前整理をしていて、財産問題など悩む部分も出て来るでしょう。
そのような時に相談できる相手を作りましょう。できれば相続をされる側の家族ではなく、親しい友人など損得関係のない第3者が望ましいです。
行政書士などに遺言書作成を頼む場合は、短時間であれば相談に乗ってもらえるでしょう。
記録に残す
生前整理をしたらその内容を記録しておきましょう。
たとえば不用品と必要品の分別の場合も、処分するものを記録しておいた方が、あとで「あれはどこへ行った」と探さなくて済みます。
生前整理のメリット
では生前整理にはどのようなメリットがあるのでしょうか
相続トラブルを防げる
最大のメリットは、残された遺族間での相続のトラブルの発生を防ぐことができる点です。
それまで仲のよかった家族が、相続をきっかけに仲たがいするというケースはよくあります。
自分が亡くなった以降も家族が仲良くしていてほしいと思うのであれば、その原因となる相続について、自分の意思を明確にしておくことが非常に重要です。
また遺言書などで相続の配分を指定する場合は、その配分にした根拠も、たとえば「次男は自分の介護で世話をかけたので分配を多くして御礼の気持ちを表す」などと書いておいた方が遺族の納得につながります。
遺族の遺品整理の負担が減る
自分の持っているものを処分するだけでも大変ですが、これが人のものの処分となるとその大変さは倍増します。特に何がどこにあるのか、などということがわからないと、作業は混迷を極めます。
またそのものの保管理由も遺族にはわかりませんから、「なぜお父さんはこんなゴミを取ってあったのか」と故人への不満にもつながります。
そのような遺族の負担を減らす為にも、自分が生きている間に、不要なものを処分しておいたほうが良いのです。
特に今住んでいるのが、一人暮らしの賃貸住宅の場合は、亡くなったらすぐに立ち退く必要があります。
その時遺品が多いと処分を短時間で行わなければならないため、遺族の負担はさらに増します。遺族の負担を減らすためにも、生前に不用品は処分しておいた方が良いのです。
残りの人生を充実させることができる
生前整理をするということは、これまでの人生を振り返り、価値のあるものを残し、ないものを捨てることです。
また死後に起こる悩みを前もって解決することでもあります。したがって、生前整理をすれば、自分の人生の意味を再確認でき、同時に今後の残された人生で何を大切にしていかなければならないのか、ということも整理できます。
それは残された人生をより意味のあることだけに振り向けた、充実したものにして行くことにつながるでしょう。
生前整理のデメリット
ではデメリットには何があるでしょうか。
デメリットはほとんどない
実は生前整理にはデメリットはほとんどありません。すればしただけメリットがあります。
ただあるとすれば、生前整理をしてもまだ人生は続きますから、家族環境が変わったり、財産が異動したりすることでしょう。
また不用品もまた増えていくかもしれません。そうなると生前整理をしていても、どこかのタイミングでもう1度行わなければならないという可能性もあります。
しかし1度生前整理をしておけば、2回目は非常に簡単に効率的に行うことができるはずです。
貴重品のセキュリティだけが問題
生前整理の中には貴重品をまとめるということも入ります。
しかし先ほど書いたように、全てをまとめてしまうことは防犯上問題があります。ですから、印鑑だけを別にしたり、あるいは銀行の貸金庫を使うなどの工夫も必要でしょう。
弁護士や司法書士に頼む費用がかかる
遺言書を法的に絶対に有効なものにするためには、専門家に頼むことが1番です。もしも法的に無効な遺言書にしてしまった場合、せっかく書いても自分の遺志が死後に反映されません。
しかし専門家に頼むとそれなりに費用がかかります。それがデメリットと言えばデメリットでしょう。しかし必要経費であることも事実です。
まとめ
生前整理の重要性と何をするべきかについておわかりいただけたのではないでしょうか。
生前整理をすることは残された人生の充実に繋がります。
ですから、思い立ったら若いうちでも良いので、すぐに取り掛かりましょう。