掛け軸は、誕生当初は仏様の絵として中国より日本に伝わり、崇拝用に用いられてきました。
和室などにかける観賞用の掛け軸もありますが、仏壇の中にかける崇拝様もよく利用されています。
崇拝用の掛け物は、仏像と同等に扱われており、安置する前にお寺で開眼法要をするのが一般的です。そのため、仏像としての掛け物をかけたり、選んだりする時は宗派に沿って行います。掛け軸なら何でもいいというわけではないので、かけ方や選び方を教えておくべきです。
今回の記事では
- 仏壇に祀る掛け軸の基本情報
- 宗派別の掛け軸の特徴
- 掛け軸の選び方
- 掛け軸のお手入れ方法
- 掛け軸の処分方法
についてご紹介します。
仏壇に祀る掛け軸とは?
本来、掛け軸と言う言葉には「掛けて拝する」の意味があり、飛鳥時代に中国から日本に伝わった時には、現在のような美術品ではなく、崇拝用の仏様の絵でした。
中国では、宋の時代に掛け物が始まったとされており、飛鳥時代に日本に伝わってから、浮世絵、山水画、花鳥画などの美術品へと発展していきました。しかし、もともとは、仏壇を荘厳するための崇拝用の掛け物であり、当初から本尊と両脇侍(脇侍左・右)の3本セットで扱われていました。
仏壇に使用する掛け軸は、芸術作品としての掛け物とは少し違い、仏像と同様に扱われています。もちろん、掛け軸ではなく仏像を祀る家もあります。しかし最近は、仏像としての掛け物を仏像として祀る家の方が多いです。
仏像にするか掛け軸にするかはお寺からの指示がない限り、特別な決まりはありません。が、本尊と両脇侍の組み合わせは、宗派によって決まりがあります。
掛け物に仏像として現されているのは仏陀の姿です。仏陀とは、仏教開いた人であり、悟りを開いた聖人として知られています。そのような歴史があり、仏教では仏壇に仏像を祀るしきたりになっているのです。
宗派で異なる仏壇の掛け軸の種類
仏壇に仏像としてかける掛け軸は、宗派によって種類が異なります。本尊の仏様や両脇侍が違い、代々の宗派のやり方に沿って選ぶのが一般的です。
ここで、代表的な8つの宗派の掛け軸の種類を説明します。
天台宗
天台宗は中国で生まれた大乗仏教のひとつで、806年に最澄により伝えられ、日本でも広まりました。最澄は伝教大師としてよく知られているため、天台宗の両脇侍左には、伝教大師が描き出されています。
- 本尊 釈迦如来
- 両脇侍 脇侍左が伝教大師、右が天台大師
真言宗
真言宗は9世紀に空海が開いた大乗仏教の宗派で、空海が恵果阿闍梨から伝承した密教が基盤になっています。
空海は、弘法大師としてよく知られているため、両脇侍の右には、弘法大師が描き出されています。
- 本尊 大日如来
- 両脇侍 脇侍左が不動明王、右が弘法大師
浄土宗
浄土宗は、浄土信仰を基本にした大乗仏教の宗派のひとつで、法然によって開かれました。
- 本尊 阿弥陀如来
- 両脇侍 脇侍左が法然上人、右が善導大師
浄土真宗本願派
浄土真宗本願派は、親鸞によって開かれた浄土真宗の宗派の一つで、本山は親鸞の墓所がある西本願寺です。
- 本尊 阿弥陀如来
- 両脇侍 脇侍左が蓮如上人、右が親鸞聖人
真宗大谷派
真宗大谷派は、親鸞によって開かれた浄土真宗の宗派の一つです。
- 本尊 阿弥陀如来
- 両脇侍 脇侍左が九字名号、右が十字名号
臨済宗
臨済宗は、中国の禅宗五家の一つが日本に伝わり、禅宗の一つになった仏教の宗派です。
禅宗は5つの宗派があり、さらに臨済宗には14派もあるため、宗派によって両脇侍が異なります。
- 本尊 釈迦如来
宗派のやり方に合わせて掛け軸を購入したい場合は、お寺に問い合わせて確認しましょう。
曹洞宗
曹洞宗は、中国の禅宗五家から始まり、鎌倉時代に日本で道元が開いた鎌倉仏教の一つです。
宗祖の道元は、承陽大師(しょうようだいし)としてよく知られています。
- 本尊 釈迦如来
- 両脇侍 脇侍左が常済大師、右が承陽大師
日蓮宗
日蓮宗とは、鎌倉時代に日蓮によって開かれた日本仏教の一つで、日蓮法華宗とも言われています。
- 本尊 曼荼羅
- 両脇侍 脇侍左が大黒天、右が鬼子母神
仏壇で使用する掛け軸の選び方
仏像としての掛け物を選ぶ時、本尊と脇侍を全部揃えるか、脇侍だけにするかなどと迷う人が多いでしょう。
お寺の方法に従うか、指示がない限りはどちらを選ばなければいけないという決まりはありませんが、仏壇の荘厳のためには、宗派のやり方に沿って掛け物を選ぶとよいでしょう。
最近では、両侍だけを購入して仏像とセットする人も多く見受けられます。
しかし、本尊と両脇侍の3本1組の掛け軸で買った方が祀る際に、簡単で手軽です。
ここで、仏壇に祀る掛け物を買う時の選び方をご紹介します。
仏壇のサイズに合わせる
仏壇の大きさに合う掛け軸を購入しなければ、サイズが合わずに祀ることができません。
仏壇の大きさは、上置き用で高さ65cm程度、台付で高さ130cm程度までが目安です。
掛け軸を買う際は、まず仏壇の大きさを測ってから選ぶようにしましょう。
お寺の方針に合わせる
強制ではありませんが、仏像としての掛け物は仏像と同じくらい尊いので、お寺にかけ軸の種類を聞いておくとよいでしょう。
特に、臨済宗のように宗派がたくさんある場合は、お寺に問い合わせて、正しい掛け軸の種類を聞いておくべきです。
仏壇店に相談しても教えてくれますが、お寺に問い合わせたほうが正確です。
値段と質のバランスを考える
掛け軸には、職人が手書きで仏像を描いた本格的な絹本(けんぽん)とプリントされたものとの2種類があります。
絹本は、生糸で平織の布地に手書きで仏像が現されたものなのでかなり効果です。
一方、プリントされたものは、おしゃれで高級感がありますが、絹本タイプと比べると質が落ちるため、値段が安めです。
仏壇の荘厳には、高品質な掛け物がおすすめですが、プリントのものもおしゃれで高級感がありますから、予算と相談しながら、できるだけ質が良いものを選ぶと良いでしょう。
仏壇で使用する掛け軸の取り扱いの注意点
残念ながら、掛け物の材質の強度は、そこまで高くありません。
そのため、取り扱いの注意点を理解して美しく保つ必要があります。掛け物の劣化を防ぐお手入れ方法や取り扱い方法で、仏壇を美しく保って行きましょう。
ここで、掛け物のお手入れ方法や注意点をご紹介します。
湿気や直射日光に注意する
掛け軸の素材は和紙なので、水分をよく吸い、時間が経つごとに伸びたり、変形したりします。
また、絹は湿気によって縮む可能性が高いので、湿気には充分気をつけましょう。
さらに、直射日光を浴び続けると、和紙も絹も変色する恐れがあります。変形や変色を防ぐために、湿気や直射日光には特に注意しましょう。
こまめにホコリを払っておく
掛け軸には、ほこりが溜まりやすいので、定期的に払っておきましょう。ただし、ほこりを払う時は、仏壇専用の柔らかめのハタキ、布の使用をおすすめします。
掛け軸は、こすり過ぎると、表面に傷がついたり、仏様の絵が劣化したりする恐れがあります。また、濡れた布で拭くと、仏様の絵がはげてしまう恐れがあるので気をつけましょう。
仏壇に祀る掛け軸の付け方と外し方
仏壇の掛け物の付け方と外し方には、コツが必要です。正しい手順で行なっていかなければ、掛け軸の破損に繋がる恐れがあるので要注意です。仏像としての掛け物の付け方と外し方を説明して行きます。
掛け軸の掛け方
2つで1セットになっている掛け軸は、掛け軸に向かって矢筈(やはず)左の軸をかけてから、右の軸をかけます。
矢筈とは、掛け軸をかけるための棒状の道具です。
次に、3つで1セットになっている掛け軸は、真ん中の軸を一番最初にかけてから、左、右の順番で軸をかけていきます。
掛け軸が入っていた桐箱は、今後掛け軸を保管する際に役立つので捨てないようにしましょう。着物の桐ダンスと同じように、桐箱は掛け物を湿気から守って長持ちさせてくれます。
掛け軸の外し方
両手で、下の軸の先端を持ち、上の一文字のところまで両手で巻き上げて行きます。
矢筈を使って、 取り付けた時と逆の方法でかけ釘から外し、一度平坦な場所に掛け軸を広げておきます。
風帯を折り目の通りにたたみ、両手で掛け軸をゆるく巻いて行きましょう。最後に、柔らかい紙で覆ってから桐製の軸箱に収納しておきます。
掛け軸の正しい処分方法
仏壇に祀る掛け軸は、美術品としての掛け軸ではなく、仏像やお位牌と同じ扱いになるため、処分する時はお性根抜きをする必要があります。
お性根抜きのあとは、一般の家庭ゴミとして捨ててもいいですが、理想はお寺などでのお焚き上げです。
仏壇用の掛け物の供養や処分方法は、正しく理解しておきましょう。
開眼法要でお性根を抜く
掛け軸は開眼法要で魂を入れてから仏壇に祀りますが、処分をする時は、魂を抜く閉眼供養(へいがんくよう)やお性根抜き(おしょうねぬき)をしなければいけません。
ただし、魂抜きはお坊さんにお経を読んでもらい、法要を行わなければいけないので、お寺などに依頼する必要があります。
仏像としての掛け物から魂が抜けると美術品になるので、普通のゴミとして処分することも可能です。
お焚き上げ
魂が抜けた掛け軸は、一般の家庭をゴミとして処分することもできますが、お焚き上げでの処分の方が丁寧で、気分的にもスッキリするはずです。お焚きあげは、お寺や供養専門業者などに依頼すると、正しい方法で焼却してくれます。
まとめ
仏壇の掛け軸の種類や選び方について、お話ししてきました。
掛け軸には美術品と仏壇用があり、仏壇用は仏像やお位牌と同じ扱いになるので、美術品としての掛け軸よりも丁寧に扱わなければいけません。掛け軸でありながら仏像としての魂がこもっており、魂を入れたり抜いたりする法要も行う必要があります。
また、仏教の宗派によって、選ぶべき掛け軸の種類が違ってくるので、確かめた上で購入するべきです。かなり細かく分かれている宗派もあるので、正式な掛け軸を揃える場合は、お寺などに確かめておくとよいでしょう。