法事というと午前11時頃から始めるイメージがあります。
しかし参列者に昼間勤めている人が多い場合、あるいは土日などの休みの日に法事を行えない場合、法事を全員にとって都合の良い夜にできないかと考える人もいるかもしれません。
しかし夜の法事とはあまり聞いたことがないでしょう。
実施例が少ないということは弊害があるということを指しているのかもしれません。
たとえば故人が夜の法事では成仏できない、あるいは中には夜の法事は悪霊が出やすいので避けるべきという考えもあるでしょう。
そこでここでは実際に夜に法事を行うことはタブーなのかという点について解説します。
法事とは
法事というといろいろなものを思い浮かべますが、定義はいったい何なのでしょうか。
法事とは何か
法事とは、仏「法」の行「事」の略です。
つまり家族や親族の死後、葬式以後の仏事は法要もお参りも法事です。
法要は法事全体の中の僧侶が読経する部分だけを指すので、厳密には法事とは意味が違います。
例えば、僧侶の読経後の会食は法事の一部ですが、法要には含まれません。
法事の種類
法事には以下の種類があります。
亡くなって7日目に初七日を行い、その後7日ごとに法要をして、49日目に四十九日法要を行うまでが故人の霊魂がこの世にとどまって、成仏までの間、待機している期間になります。
この期間を仏教では「中陰(ちゅういん)」または「中有(ちゅうう)」と言い、49日目に行う法要の四十九日法要を「中陰法要(ちゅういんほうよう)」とも言います。
ですから故人が成仏するための四十九日法要が最も大切なのでこの法要には親族や知人を招き、盛大に催すのです。
亡くなった月の亡くなった日の命日を「祥月命日(しょうつきめいにち)」、それ以外の月の亡くなった日のことを「月命日」と言い、仏教では原則としてすべて法要を催します。祥月命日の中でも重要な日に行う法要が「年忌法要(ねんきほうよう)」です。
年忌法要には以下のようなものがあります。
- 初七日(しょなのか)
- 二七日(ふたなのか)
- 三七日(みなのか)
- 四七日(よなのか)
- 五七日(いつなのか)(=三十五日)
- 六七日(むなのか)
- 七七日(なななのか)(=四十九日)
- 百か日(ひゃっかにち)
- 一周忌(いっしゅうき)
- 三回忌(さんかいき)
- 七回忌(しちかいき)
- 十三回忌(じゅうさんかいき)
- 十七回忌(じゅうななかいき)
- 二十三回忌(にじゅうさんかいき)
- 二十五回忌(にじゅうごかいき)
- 二十七回忌(にじゅうななかいき)
- 三十三回忌(さんじゅうさんかいき)
- 五十回忌(ごじゅっかいき)
四十九日法要によって無事に成仏した故人の霊魂は33年間あるいは50年間は個人の人格を持っています。
そして33年後または50年後に個人の人格が消え、祖先の霊と一緒の「祖霊」として一族を守る存在になります。この個人の人格が消えて祖霊になるための法事が三十三回忌または五十回忌です。
基本はこれ以降法事を行わないため、三十三回忌または五十回忌を「弔い上げ」と言います。
しかし非常に徳の高い、弘法大師などの場合は五十回忌から50年毎に「遠忌(おんき)」と言う法要を行います。
法事は夜に開催しても大丈夫?
結論から言うと、法事を行う時間帯は寺院、主催者、参列者の都合で決めてもかまいません。
したがって仮に法事を夜に行ってもそれは問題ないのです。
ただし夜に法事を行う場合、寺院が対応してくれないことが多いので、事前に相談することが大切です。
夜に法事をするときのスケジュール
法事を午後にする場合は、16時開始が一般的です。
これは、法要後の食事を夕飯時に合わせるためです。
16時開始にすれば、読経と説法が1時間程度、その後会食会場に移動すると17-18時くらいに食事を始めることができます。
ただし、法事を始める時間に決まりはないので、あくまでも僧侶と法事の主催者、参列者で合意されていれば何時でも構いません。
法要後の食事を設けないといったこともあり得ますので、臨機応変に対応しましょう。
一般的に夜に法事をしない理由
そもそも、なぜ法事は夜にされることが少ないのでしょうか。
昼食に合わせるため
法事の際は、僧侶の読経の後に参列者で食事をする「お斎(おとき)」があります。
食事をちょうど昼食の時間に合わせるため、多くの場合は11時開始が多いでしょう。
遠方からの参列者も帰りやすくするため
四十九日、一周忌など親族全体で盛大に行う法事では、遠方からの親戚も参列することがあります。
もし夕方や夜から開催すると、遠方からの参列者は一泊することになります。
陰陽道の影響
ところが古くから仏教と合わせて日本人の価値観を左右してきた陰陽道では、日中の太陽が出ている時間帯を「陽」、太陽が沈んでいる時間帯を「陰」とし、陰の時間帯には、霊魂が迷いやすい、魔物が出やすいとされています。
ですからこの考えを背景に、通夜を除いたあらゆる仏教行事は太陽が出ている時間帯、多くの場合は午前11時から始めることが多いのです。
しかし故人にとっては、参列者が集まりにくい時間帯に無理をして集まってもらうことは恐縮する原因になりますし、あるいは参列者がそのために少なくなっても供養するという目的にそぐわないことになります。
ですから多くの人とって都合がよく、そのため参列者が多く集まれる時間帯に法事を行うことは現代では何ら問題ではありません。
法事とはいつするもの?
では法事は原則としていつ催すものなのでしょうか。
法事が生じる日にちはあらかじめ決まっている
法事を催す日と言うのは上で書いたように決まっています。
そして催す日にちも、その祥月命日であることが基本です。
ただし、四十九日法要は厳格に亡くなって49日目ということが決まっていますが、それ以降の年忌法要の場合は、参列者が集まりやすい土日で祥月命日に近い日を選ぶことが多いです。
ただし祥月命日を過ぎて行うことは推奨されず、祥月命日よりも前倒して行うことが普通です。
法事は平日に開催しても大丈夫?
また法事を行う曜日にタブーがあるのか、という点についても解説しましょう。
先ほど書いたように法事は土日などの休みの日に行うことが一般的ですが、これには宗教的な意味はなく、あくまで参列者にとって都合がよいという理由だけです。
ただし先ほど書いたように、参列者は多く来ていただいた方がいいので、やはり土日に催したほうがベターであるのは事実です。
しかし何らかの都合によって平日に催さなければならない場合は、それはそれでよいでしょう。
法事をしてはいけない日はあるか?友引でもよい?
法事を行う曜日については上で書いたようにタブーはありません。
しかし気になるのは、友引、仏滅、大安などと言う、いわゆる「六曜」でしょう。
六曜とは「ろくよう」あるいは「りくよう」と読み、中国で開発された暦の1つです。六と言うからには6種類あり、それは先勝(せんしょう)、友引(ともびき)、先負(せんぶ)、仏滅(ぶつめつ)、大安(たいあん)、赤口(しゃっこう)です。
日本でも六曜はカレンダーや手帳などに記載され、今でも「結婚式は大安に行うべき」「葬式は友引を避けるべき」などの考えが存在しています。
その意味では、故人の霊魂が「滅」びてしまう「仏滅」は避けたほうが良い、という気がするかもしれません。
特に「仏滅」というと釈迦の亡くなった日だと考え、何事も控えるべきだという人もいるでしょう。
しかし仏滅は元は物事の勝負に負ける日という意味で「物滅」と書いていました。
その「物」がいつしか「仏」になっただけなので、仏教上タブーになるような意味合いは皆無なのです。
むしろ仏滅は「物滅」なので「物が1度滅び、そこから再生する日」として「大安」よりもめでたいという考え方さえあります。
そもそも六曜自体、そもそもは太陰暦が施行されている時に、6つの日が順番に毎日並んでいただけの暦だったので、太陰暦が基本だった江戸時代では現在ほど気にされていませんでした。
しかし明治に太陽暦が導入されると、太陽暦と六曜がずれたため、大安が2日続けて来るなど、いかにも意味があるそうな並びになったので、そこに吉凶があるように信じられ始めただけです。
したがって、六曜は現代においてはほぼ意味はありません。ですので、六曜に関係なく、仮に仏滅であっても法事を催しても何も問題ないのです。
法事の日をずらしたり、まとめたりするのはOK?
法事は基本的に祥月命日に行うことになっています。
しかし先ほど書いたように、その日が平日で参列者にとって都合が悪い、というような場合は土日にずらしても問題ありません。
しかし一般的に、その日を祥月命日よりも後ろ倒しにすることは望ましくないとされています。ですから祥月命日よりも前の土日で設定するほうが良いでしょう。
また法事の日程をまとめてしまっても大丈夫です。
特に法事の場合は、参列者に案内を出したり、会場を決めたり、寺院と打ち合わせをしたり、会食の会場を決めて料理を手配したり、引き物を決めて用意したり、さらには最寄りの交通機関から会場までの移動手段を確保したり、などやることもたくさんあります。そして費用もかかります。
したがって、たとえば11月10日に母親の七回忌を行い、25日に父親の十三回忌を行う、という場合、それぞれを独立して催すと主催者側の負担になるだけではなく、参列者も重複していますからそちらにとっても大変な負担になります。
そのような場合は、お互いの祥月命日よりも前の日に、一緒に法事を催すという選択肢があります。そうすれば法事の主催者にとっても参列者にとっても、時間的、肉体的、金銭的な負担が少なくなります。
このように便宜だけを考えて法事の日程を変えてしまうのは、故人にとって非礼になるのではないか、成仏を妨げるのではないか、と言う懸念もありますが、四十九日までの法要以外であれば、このように法事をまとめて行うことは古くから「併修(へいしゅう)」「合斎(がっさい)」と言って普通のことでした。
ですから懸念なく、法事をまとめてしまっても大丈夫なのです。
まとめ
夜とは誰にとっても気味の良い時間帯ではありません。
特に霊魂が関わる行事の場合は、夜に催すことは何となくためらわれることも多いでしょう。何より夜は「幽霊」が出る時間帯なので、夜に法事を行うと故人だけではなく、変な霊までも呼び寄せてしまうような気がするかもしれません。
しかしそれは本文でも書いたように、日本人の心のありようを水面下で左右してきた陰陽道の影響から感じることです。
今でも陰陽道を信じている人がいることも事実ですが、しかし科学の発達した現代においては、陰陽道にそれほど縛られる必要はありません。
したがって夜に法事を行っても、故人の霊魂にとってそれがマイナスになったり、あるいは参列者に何か悪いことが起こる、ということは考えなくても良いのです。
むしろ法事は多くの人が参列できた方が故人にとっては供養になります。ですから合理的に考えて、夜に法事を催したほうが良ければ、躊躇なくその時間帯に設定してもよいでしょう。