交通事故や自死、孤独死などで人が亡くなった場合、遺体がひどく損傷してしまうことがあります。
そうなると通常のお葬式のように、そのまま棺に遺体を安置して、遺族や弔問客が見送るということはできません。
遺体が損傷してしまった場合、お葬式までにきれいにしてもらうことはできるのでしょうか。
あるいは、遺体の損傷が激しいまま葬儀をする場合、どういった方法があるのでしょうか。
遺体の状態がよくない場合の葬儀の行い方について解説します。
■遺体の顔が変化したり、損傷したりするケース
まず遺体が損傷したり、顔が原型をとどめないほど変化したりするケースにはどのようなものがあるのかを解説します。
・交通事故
1つは交通事故です。
交通事故で人が亡くなった場合は、どのようにして葬儀までステップを踏むのでしょうか。
遺体との対面
交通事故があった場合は警察から連絡があります。
連絡を受けたら急いで警察や病院へ行かなければなりません。
そして遺体が損傷していない場合はそのまま対面しますが、遺体の身元確認が難しい場合は、まずその人の身体的特徴や所持品などについての質問があります。
それに答えて、遺体がその人の間違いないと判断された場合は、対面になります。
事故の場合は司法解剖が必須
遺体と対面してもすぐに自宅に搬送というわけにはいきません。
遺体は加害者の犯行立証のために、司法解剖に回されます。
司法解剖は遺族は拒否できませんし、司法解剖自体、非常に時間がかかります。
損傷が激しい場合は、遺体が帰ってくるまで1週間かかることもあります。
死亡届がすぐに出せない場合も
遺体が帰ってきたら、死亡届の提出です。
遺族が混乱していて難しい場合は、葬儀社や代理人でも死亡届の提出は可能です。
死亡届を提出する場合は、死亡診断書が必要ですが、そもそも遺体の損傷が激しく、個人認証が難しい場合は、DNA鑑定などを行うために、さらに時間がかかります。
・自殺や孤独死の場合は検視が必要
交通事故ではなく、自殺や自宅での孤独死など、亡くなった状況に不自然なものがある場合は、検視が必要になります。
検視とは
病気などで病院に入院し、そのまま亡くなった場合は、問題なく医師は死亡診断書を発行します。
しかしそういう亡くなり方ではない場合は、検察による検査が行われます。
それを「検視」と言います。
検視とは、検察官などが医師の立会いのもとで遺体を検査し、犯罪性の有無を確認する作業です。
自殺や孤独死もこの不自然な亡くなり方に当たります。
自宅で自殺や孤独死を発見したら?
自殺を見つけたり、家を訪れて孤独死していることを発見した場合は、遺体に触れてはいけません。
すぐに警察に連絡をし、検視してもらう必要があります。
故人にとって苦しい状況で自殺していても遺体を床に安置することはできませんし、腐敗を防ぐためにドライアイスなど冷やすこともNGです。
また病気のため自宅療養をしていて、そもまま亡くなった場合でも、事件性がないことを医師に確認してもらう必要があります。
ですから自宅で医師に看取られないで亡くなった場合は、かかりつけ医がいたら、すぐに呼びましょう。
検視の流れは?
自然死でない場合は、警察が遺体を確認し、事件性がないと確認した上で、死因、身元、身体的特徴を記録します。
事件性があったり、事件性の有無がはっきりしない場合は、検察官によって検視されます
検視して事件性がないことが確認されたら、医師によって死亡理由を医学的に確認される「検案」が行われ、「死体検案書」が作成されます。
事件性があると判断された場合は、司法解剖となり、死因、死後経過時間、損傷などが明らかにされます。
司法解剖は、裁判所の委託した大学の法医学教室で行われるので、遺体が帰ってくるまで数日以上はかかります。
さらに身元不明の場合や、遺体の損傷が激しくて本人確認ができない場合は、DNA鑑定になります。
DNA鑑定の結果が出るまで10日から1ヶ月以上かかり、その結果確認後ようやく死亡検案書が発行されます。
それまでは死亡証明書が発行されないため、死亡手続きも葬儀も行えません。
■遺体腐敗はどのくらいのペースで進行するのか
気になるのは、死亡証明書が発行されて火葬から葬儀が行えるまで時間かかり、その間に遺体が腐敗することでしょう。
あるいは孤独死の場合は発見まで時間がかかり、その間に遺体が腐敗してしまうこともあります。
・遺体の腐乱はどのように起こるのか
そもそも遺体の腐敗は以下の2つの現象によって発生します。
自家融解
1つは自家融解です。
自家融解とは、内臓にある酵素の働きで遺体が分解されていく現象です。
自家融解は温度が低いほど発生するまで時間がかかります。
腐敗
もう1つが腐敗です。
腐敗は微生物が遺体の有機物を分解されることです。
腐敗は、死後数時間で、腸内の細菌が腐敗ガスを発生させることによって始まります。
その後、腸内細菌は血管を通って全身に広がり、全身を腐敗させていきます。
そして死後1日から1日半で、下腹部が変色し、その変色が上腹部から胸部へ広がります。
さらに死後2~3日で、全身の血管が変色します。
その後は、表皮に水泡が現れ、水泡の中に体液と腐敗ガスが溜まり、それによって表皮がはがれていきます。
ですから死後数時間ですでに腐敗は始まっていると言えるのです。
このような遺体の腐敗は、亡くなってからどの程度の時間が経つと始まるのでしょうか。
・腐敗は何日目から進行するのか
さらに腐敗が目に見え、近くに寄れないほど進行するまでにはどの程度の時間がかかるのでしょうか。
虫が発生
遺体が腐敗するとそこに虫が発生します。具体的には、ウジムシ、ハエ、ゴキブリなどで、特にハエは密室でもわずかな隙間から侵入して遺体に産卵します。
そして卵は3日後にはふ化しウジムシになります。
ウジムシはそれから5~10日でハエになり、さらに遺体に産卵します。
体液、腐乱液が染み出す
遺体が腐敗すると体液や腐乱液が染み出します。
腐乱液はドロドロのもので、布団、畳、床に浸透します。
腐乱臭の発生
腐敗した遺体は腐乱臭を発生します。
この臭いは強烈で、部屋のあらゆるところに染み付きます。
こうなると近くに寄ることもできません。
■葬儀屋は遺体の修復処置をどこまでしてくれるか
このように遺体が腐敗した場合、事故で遺体が損傷した場合、司法解剖などによって遺体がすぐに帰って来ず腐敗しまった場合は、そのまま葬儀を行うことは現実的に不可能です。
そういう時には、葬儀社を通じて専門家に遺体の修復措置、すなわちエンバーミングを依頼することになります。
・遺体が損傷している場合はエンバーミング
エンバーミングとは遺体の損傷を修復し、腐敗を止める方法で、欧米では事件性はない遺体の場合でも、一般的に行われています。
具体的なエンバーミングの方法は、遺体に残る飲食物や、体液、血液を除去し、動脈から防腐剤を注入して、遺体の腐敗を防ぐことが主なものです。
さらに、遺体の一部が陥没している場合はシリコンなどを注入して原状を回復させたり、遺体が切断されている場合は縫合したりします。
その上で遺体の全身と毛髪を洗浄し、死化粧を施して、まるで遺体がまだ生きているかのような見た目にしてくれます。
・エンバーミングはどこまで可能か
エンバーミングは特殊な技術なので、技術者のレベルによってどこまで修復可能かは異なります。
レベルの高い技術者が行った場合は、生前の表情が分からないほど遺体が損傷している場合でも、数時間で嘘のようにきれいになります。
・エンバーミングにはどの程度の費用がかかるのか
エンバーミングは非常に高度な技術を必要とするものなので、費用は決して安くはありません。
相場はだいたい20万円ほどです。
遺体の腐乱や損傷がひどい場合は、それ以上の費用がかかる場合もあります。
ですからエンバーミングを行いたいと思う時には、葬儀社を通じて見積もりを取るようにしましょう。
■損傷の激しい遺体の場合、葬儀はどうするか
エンバーミングが不可能なほど遺体が損傷していたり腐敗していたりする場合、エンバーミングをする費用がない場合はどうしたらよいのでしょうか。
・骨葬
遺体の損傷が激しい場合は、遺体を遺族や弔問客に見せないで葬儀を行う方法があります。
といっても棺がありながら、遺体と対面させないのはあまりに不自然です。
一般的な葬儀の場合、通夜と告別式には遺体をそのまま安置して遺族や弔問客と別れを告げ、そのあと火葬するというのが流れですが、それを前後逆転させ方法があります。
すなわち、葬儀の前に火葬を行い、遺骨の状態で弔問客を迎えるわけです。この方法であれば、遺体を見せない不自然さは解消できます。
このように、葬儀の前に火葬をしてしまうことを骨葬と言います。
骨葬は特に特殊な葬儀の方法ではなく、東北の一部など地方によっては一般的に行われています。
したがって、遺体が損傷していて骨葬にした場合でも、弔問客は遺族または故人がそのような風習の地域の人なのかと思ってくれるので、不自然さはありません。
・納体袋を使った葬儀
骨葬にしない場合は、遺体を「納体袋」に入れたうえでい棺に納める方法があります。
納体袋とはグレーや黒などの、まさに寝袋のような袋のことです。
この方法であれば、損傷した遺体を人に見せることは避けられます。
ただし納体袋に入っていること自体、遺体が見せられないほど損傷していることを示唆してしまいますから、あまり好ましい方法だとは言えません。
■まとめ
もし事故や不自然な亡くなり方をした場合、遺体が激しく損傷してしまう場合があります。
また、不自然な亡くなり方をした場合は検視が必要になるため、葬儀までさらに時間がかかり、腐敗が進行してしまうこともあります。
そういった場合でお葬式に困った場合は、葬儀社と相談してエンバーミングをするか、葬儀は骨葬にするか、納体袋を使うかなどを打ち合わせていきましょう。