お仏壇にお参りするときは、ろうそくに火をつけ、そこから線香に火をもらってお供えします。
これは一般的な仏壇のお参りの仕方で、多くの人が無意識にやっているのではないでしょうか。
ですが、ろうそくを供えるにも本来は意味があります。
今回の記事では、お仏壇のろうそくの意味や、お供えの作法について解説します。
仏壇にろうそくを供える意味
仏壇にはなぜろうそくを供えるのでしょうか。
仏教におけるろうそくの意味
仏教の教えの中でのろうそくの意味には2つあります。
1つは自分自身を振りかえるために周囲を明るくするということで、このために用いるろうそくを「自灯明(じとうみょう)」と言います。
またもう1つの意味は仏教上正しいとされる行いや考え方、すなわち真理を明らかにするというもので、そのために灯すろうそくを「方灯明(ほうとうみょう)」と言います。
日本におけるろうそくの歴史は非常に古く、まだ仏教が伝来する前の、天照大神を祀る太陽信仰があった時代から、祭壇にはろうそくを供えていたようです。
また当時の儀式は、夜に行うものも多かったため、ろうそくの火は周囲を照らす明かりの役割も果たしていました。
さらには、火には暗闇を照らすだけではなく、あたりの邪気を払い、周囲を浄化する働きもあるとされていました。
したがって宗教儀式の際には必ずろうそくか、あるいはろうそくに代わる明かりが用意されていたのです。
そして6世紀の中盤に仏教が朝鮮半島を経て中国から伝来した時には、その従来のろうそくに対する考え方にさらにプラスして仏教上のろうそくの意味が与えられ、宗教儀式だけではなく、仏教と一緒に伝来した仏壇にお参りをする際にもろうそくが供えられるようになりました。
仏壇にろうそくを供える理由は?
仏壇にろうそくを灯す根本の意味は以上で解説した2つなのですが、日本では仏教が独自に発展したため、古くからある民俗的な宗教と仏教が一緒になり、新たな意味がろうそくに加わりました。
大まかに言うと、仏壇のろうそくは故人が帰ってくる目印としての役割と、自分や個人の命を意識するものとしての役割があります。
そもそも仏壇は、あの世とこの世の境界にあり、あの世に行った故人の霊魂がこの世に来る時の窓口となるものだという考えがあります。
したがって、その仏壇に灯すろうそくは、あの世にいる故人の霊魂が、自分の家族のいるこの世に通じる窓口を認識できるように、その目印をして供えるのです。
さらにろうそくの火自体に人間の命を託すという考え方も同時にあります。
ご存じのようにろうそくとは綿の糸を芯とし、その周りにろうを巻いて固めたものです。
したがって長さも太さも違い、火がついている時間もそれぞれのろうそくで異なります。
これがやはり寿命も充実度もそれぞれに異なる人間の生と重なる部分があるので、ろうそく=人間の生、という考え方が生まれたのです。
ですから、仏壇にろうそくを供えることは、故人のためであると同時に、お参りをする人の命をその仏壇に託して、自分の命、つまり霊魂と故人の霊魂が出会えるようにする、という意味もあるのです。
ろうそくの供え方
ではろうそくを仏壇に供える時に、その方法やマナーはどうしたらよいのでしょうか。
ろうそくを置く位置
仏壇に供えるものがろうそくのほかにもあります。
それは五供(ごくう)と言って、花、線香、水、食べ物、そしてろうそくです。これらはすべて仏壇の中で供える定位置があります。
まず花立て、ろうそく立て、香炉(線香立て)は仏壇の中の1番下の段に供えます。並べる順番は、向かって右から、ろうそく立て、香炉、花立てです。
ろうそくは1本供えても、2本供えてもよいので、2本供える場合は、花立てを1番外側に配置し、その内側の左右にろうそく立てを供え、中心に香炉を置きます。
火の付け方
ろうそくの火のつけ方にはマナーはありません。
したがってマッチでもライターでもよいでしょう。
ただし手元にマッチもライターもないという場合、中にはガスコンロから火をつけてしまう人がいますが、これはあまり推奨できる方法ではありません。
ですから必ず仏壇にはマッチかライターを置いておきましょう。
また線香に火をつける時には、マッチやライターから直接つけるのはマナー違反です。
まずろうそくの火を灯し、そのろうそくから線香に火をつけましょう。
ろうそくは何本供える?
先ほど書いたように仏壇に供えるろうそくの本数は1本または2本です。
これは宗派によってどちらにしなければならない、ということはありません。どちらかと言えば仏壇のサイズによって異なります。
仏壇の中のスペースが狭く、ろうそく立てが一つしか置けなければ必然的にろうそくも1本になります。
火の消し方
ろうそくの火は口から息を吹きかけて消してはいけません。
ろうそくの火は手で仰いぐなどして消しましょう。
仏教の教えでは、肉食はすべて殺生なので穢れた行為です。
しかし一般的に生活していれば、肉や魚を食べていますから、そもそも人間は穢れていて、したがってそこから吹き出される息も穢れているということになります。
ろうそくの火は周囲を浄化するものなので、そこに穢れた息を吹きかけるということはタブーです。
ですので、ろうそくを消す時には息を吹きかけず、手であおぐなどの方法で行いましょう。
あるいは慣れてきたら、親指と人差し指でろうそくの芯の火が付いていない下の部分をつまむと、火に酸素が供給されなくなるので自然に消えます。
また「ろうそく消し」や「仏扇(ぶっせん)」など専用のろうそくの火を消す道具があれば、それを使いましょう。
「ろうそく消し」は、柄杓を小さくした形をしており、ろうそくの火の上にかぶせて火を消すものです。「仏扇」は手の代わりにろうそくの火をあおいで消すのものです。
ろうそくを供えるタイミング
ろうそくを供える順番は、最初に仏壇に水を供え、その次に炊き立てのご飯を供え、さらに花を供えた後ということになります。
この順番は間違えても問題ありませんが、原則仏壇へのお供えは毎日するものなので、ルーティンとして覚えておいた方が良いでしょう。
ろうそくの火のつけっぱなし・消し忘れはNG?
ろうそくの火はつけっぱなしにはしません。
これには2つ理由があります。
1つはろうそくは先に書いたようにこの世とあの世をつなぐ窓口の道しるべとなるものです。
したがってろうそくがついているということは、この世側にお参りをする人がいるということを、あの世の霊魂に伝えることにもなります。
しかしロウソクの火をつけっぱなしにしておくと、霊魂がせっかく降りて来ても誰もいない、ということが起こってしまいます。
ですから、お参りが終わったらろうそくの火は消すのがマナーなのです。
またもう1つは現実問題として、ろうそくの火をつけっぱなしにしておくと何かの拍子で周囲に引火してしまうかもしれません。
そうなると火災の原因になるので大変です。
したがってその場に人がいる時にはろうそくをつけても、人が離れる際にはろうそくの火は消すべきなのです。
電気式のろうそくはOK?
ろうそくの火が危ないということで、最近はLEDライトなどを使った電気式のろうそくも増えています。
電気式のろうそくでは、周囲の空気は浄化できませんが、しかしあの世から霊魂が降りてくる際の目印としては十分に機能します。
したがって、使用しても問題はありません。
赤ろうそくと白ろうそくはどう使い分ける?
ろうそくには実は、白ろうそくと赤ろうそくまたは朱ろうそくがあり、使用するタイミングが異なります。
白ろうそくは、毎日の仏壇へのお参りの際に火をつけるものです。また葬儀や、四十九日法要、一周忌、三回忌、命日の時のお参りににも使います。
これに対して赤ろうそくは、七回忌以降の法要や正月、仏前結婚式など慶事の時に使います。ただし浄土真宗の場合は、七回忌以降の法要だけではなく、お彼岸、お盆の時にも赤ろうそくを使います。
ろうそくの保存方法
ろうそくのろうは熱で溶けるものなので、保管しているときには温度変化だけではなく、実は湿度にも敏感です。
ろうそくが温度や湿気によって劣化するとカビが生えたり、ヒビが入ったりして使えなくなります。
あるいはろうそくの芯が湿ってしまい、火がつかなくなることもあります。
そのようなことを防ぐためには、ろうそくを保管する場合には以下の点に注意しましょう。
- ろうそくは箱に入れて保管する
- 直射日光が当たる場所にはおかない
- 冷暗所で保管する
- ただし冷蔵庫では保管しない
仏壇のろうそくは故人のメッセージを伝える?
古くからの言い伝えで、仏壇に供えたり、仏壇の近くに保管しているろうそくの変化によって、故人の霊魂が何らかのメッセージを伝えているというものがあります。それは以下のようなものです。
ろうそくがなくなったら
保管してあったろうそくがいつの間にかなくなっている、ということは家族に何かよくないことが起こるのを予兆しているという言い伝えがあります。
たとえば、「家族がケガをする」「家族が病気になる」「近所で誰か亡くなる」などです。
しかしこれらには根拠はありません。
ただしろうそくは仏壇にお参りをする上では必須アイテムですから、切らさないような心がけは大事です。
不思議な溶け方になったら
ろうそくのろうが不均一な溶け方によって先祖の霊がメッセージを伝えている、という言い伝えがあります。
たとえば、以下のようなものです。
- ろうそくの右側だけが溶けた場合は、家族のうちの男性が病気やケガをする予兆
- ろうそくの左側だけが溶けた場合は、家族のうちの女性が病気やケガになる予兆
- 溶けたろうが波を打っているようになった場合は、その家が龍神の加護をその家が受けている
ただし、そもそもろうそくのろうは左右均等に溶けるというものではありません。
常にかすかな風が仏壇に当たっている場合、その風上から風下の方に向かってろうそくの炎が揺れるため、ろうの溶け方もそれにしたがって不均一になります。
たろうそくがまっすぐ立っていなくて、かすかにでも傾いているだけで、やはり溶け方は不均一になります。
ですからこのような霊魂のメッセージは迷信だといってよいでしょう。
ただし、病気やケガにはいつでも注意するに越したことはありませんから、もしもろうそくが不均一に溶けたらそれを自分の周囲に注意を払うきっかけにするのはよいことです。
まとめ
お仏壇にろうそくを供えるのは、故人がこの世に降りてくる時の目印と、自分や故人の霊魂について意識するという意味があります。
ろうそく立ては仏壇の一番下の段に置きます。
仏壇のサイズによって、ろうそくは1本または2本立てます。
ろうそくの火を消すときは息で吹き消すことはせず、手で仰ぐなどして消します。
仏壇のろうそくが不思議な溶け方をしたら、故人が何かを伝えようとしているという言い伝えがありますが、そもそもろうそくは不均一に溶けることがままあるので、あまり気にしなくていいでしょう。
ろうそくをお供えする意味が分かっていれば、無意識にしていたお参りも違った気持ちでできるかもしれません。