ある日突然、ご家族の身体状況が変わって介護リフォームが必要になったときはいったいどうすればよいでしょうか?
玄関、入浴、排泄とそれぞれの場面でリフォームのポイントは異なります。
今回は、場所別のリフォームについて詳しく解説していきます。
なぜリフォームが必要になったのか
介護リフォームにまず必要なのは要介護者の身体状況と、そうなった理由が大切です。
転倒したのか、転落をおこしたのか?理由を知ることで必要なリフォーム内容が見えてきます。
目次
■玄関のリフォーム
玄関扉の開閉
扉の幅の確保
└ポーチのスペース
└扉の幅の確保
土間のリフォーム・車椅子未使用の場合
└スペース
└段差の解消
土間のリフォーム・車椅子使用の場合
└スペース
└段差の解消
└手すり・支持物の設置
■風呂場(浴室)のリフォーム
車椅子使用の場合
└扉の形状
└出入り口の段差、幅
└スペースの確保
車椅子未使用の場合
└扉の形状
└出入り口の段差、幅
└スペースの確保
車椅子未使用の場合
└扉の形状
■トイレのリフォーム
アプローチ方法の確認
└前方アプローチ
└側方アプローチ
└横方アプローチ
立ち座り動作の確認
介護リフォームにおける補助金制度
介護リフォームに補助金は出る?申請の方法
リフォーム費用の相場
玄関のリフォーム
高齢者にとって玄関は転倒リスクの多い場所のひとつです。
転倒リスクを軽減するためには扉の把手・手すりの設置、段差の解消、スペースの確保が必要になってきます。
玄関扉の開閉
ポーチのスペース
車椅子を使用する場合、ポーチの利用方法を想定してスペースを設けます。
想定されるスペースには以下のものがあります。
・ドアの開閉時に車椅子を停止する
・外出用の車椅子を乗り換える
・外出用車椅子を保管する
ポーチでは移乗、停止を行うので坂道になっている場合は平坦な仕上がりにする必要があるでしょう。
扉の幅の確保
玄関戸の幅は広めに確保するようにするのが望ましいでしょう。
有効幅員の目安は以下となります。
通常:700~750mm(壁芯-芯距離910mm)
バリアフリー仕様:800~850mm(壁芯-芯距離1000mm)
※最近では有効幅員1200mm(壁芯-芯距離1365mm)という規格もあり。(231)
把手の形状
把手は昨今多くの形状の製品が開発されています。
開き戸の場合以下のような種類があります。
・ノブ式
・レバーハンドル型
・プッシュ・プル型
ノブ式は、要介護者の場合あけるのが困難となるのでリフォーム時は避けるのが無難です。
引き戸の場合も従来の彫りこみ式では高齢者の方は空けにくいので、こちらも避けましょう。
最近は取っ手部分に棒やレバーのついたタイプも存在します。
また、扉は自動ドアへのリフォームも選択肢にあります。
方法は2つです。
・住宅用に市販されている製品を使用する
・既存の扉に電動開閉機構ユニットを取り付け自動ドア化する
開閉方法にはスイッチとリモコンとありますので環境に合わせて選びましょう。
土間のリフォーム・車椅子未使用の場合
車椅子を使わない場合に玄関口のリフォームで気をつけなければならないのは以下の2点です。
・土間のスペース
・段差の解消
スペース
自立歩行の場合はスペースの拡張は特別必要ありません。
杖歩行の場合は杖をつくスペースと、添い歩く介助者のスペースを考慮しましょう。
以下目安になる寸法は以下です。
玄関戸有効幅員:750mm(壁芯-芯910mm)
玄関土間部分間口1200mm(壁芯-芯1365mm)
靴の脱ぎ履きのためにベンチ式の式台を設置する方法もあります。
そのときは玄関土間部分間口1650mm(壁芯-芯1820mm)あるとよいでしょう。
これらのスペースは実際に必要な介助、動作を行いより詳細の広さを決めてゆくほうがよいでしょう。
段差の解消
日本の在宅には玄関に上がりがまちが設けられています。
比較的築年数が浅い居宅の場合上がりがまち180mm以下の場合も多くなっていますが、古い居宅の場合、300mmの段差が設けられている場合もあります。
この場合、手すりの設置だけでは高齢者の生活には支障をきたします。
この段差解消が高齢者の生活におけるQOL確保に必要となってきます。
あがりがまちの段差解消の方法には以下があります。
・式台を置く
・スロープを設置する
・土間のかさ上げ
・段差解消機の設置
式台を設置する方法は土間に式台を置くことで土間→式台→上がりがまちと3段階以上に段差を分割することで昇降がしやすくなります。
寸法は土間から上がりがまちの調度半分の高さにして、奥行きは400mm程度あると安全でしょう。
また上がりがまちと土間を跨ぐようなベンチ式式台を置く方法もあります。
上がりがまちが100mmまでの高さで玄関にスペースの余裕があればスロープの設置を検討します。
もしスペースがなければ携帯式のスロープを検討しましょう。
土間のかさ上げは野外部分へ全体の段差を昇降するためのスペースが必要です。
また玄関戸や戸枠の取り付けなど改装工事が必要になります。
段差昇降機の設置は上がりがまちが高く、かつ土間が狭い場合スロープが使えない場合に有効です。
土間のリフォーム・車椅子使用の場合
スペース
車椅子を使用する場合にまず気をつけなければならないのは土間のスペースです。リフォームのポイントは次の4つです。
・車椅子の通行幅員
・車椅子の乗り換え
・玄関の開閉動作
・上がりがまちへの昇降動作
これらを一連の動作として考えスペースを確保しましょう。
必要なスペースは、
車椅子+歩行スペース+立位からの移乗スペース+介助者のスペースとなります。
具体的には、一般的な車椅子の全長を1100mmとして土間の奥行きは1200mmほどあるとよいでしょう。
間口は車椅子の車椅子の幅員に1000mmていど余裕があるほうがよいので1650から2100mm程度は余裕をもたせるとよいでしょう。
また同様に玄関ホールも有効幅員を確保しなければなりません。
上がりがまちをはさんで車椅子を移乗する場合は玄関ホールの奥行きを1500mm確保しましょう。間口は1650から2100mm程度必要となります。
段差の解消
車椅子の場合は段差の解消方法は限られてきます。
・スロープ
・段差解消機
スロープを設置し玄関からそのまま入る場合はポーチでの車椅子の移乗スペースを確保しましょう。
段差解消機を使う方法はもっとも安全な方法になります。
また、居宅では床上移動をしているなどの場合に限り、車椅子からそのまま上がりがまちに移乗する方法がとれます。
そのときは、車椅子を上がりがまちに寄せたときにフットサポートがおさまるように上がりがまちに蹴り込みスペースを設けるとよいです。
手すり・支持物の設置
縦手すりは基本的な手すりで、上がりがまち周辺につけます。
移乗や靴の脱ぎ履きのときに重心が不安定になるので大変有効です。
握力が弱い場合横手すりの長さを段鼻から測り勾配にあわせて取り付けます。
手すりは床面に沿って水平に延長していきます。
手すりの高さを調整するポイントは施工者とともに実際の動作を確認し位置を決めていきます。
また、将来ADLが変化した場合を考えて壁の下地工事は広範囲に行っておく必要があります。
また、下駄箱、靴入れなどが壁面にあり手すりがつけられない場合もあります。そのときはそれ自体を支持物として使用することで十分代用できます。
風呂場(浴室)のリフォーム
入浴は要介護者にとって最大とも言ってよいリスクのひとつです。
ですから退院後、要介護者となったご家族を向かえる際に最初に考えなければならないリフォームが入浴でしょう。
車椅子使用の場合
扉の形状
車椅子を使用する場合、扉の開閉は介助者が行う事が殆どです。この場合、移動時に万が一ぶつかってしまったりしたことを考慮し、扉の素材はなるだけポリカーボネイト、アクリル板、強化ガラスを使用した製品を選択しましょう。
さらに、車椅子移動、誘導最中は開閉が難しいので可能であれば引き戸にすることが望ましいです。
引き戸が難しい場合は折れ戸を使う場合もあります。
出入り口の段差、幅
車椅子移動で浴室を利用するときには浴室と脱衣所の段差をなくす必要があります。ポイントは2つです。
・クリーチングの設置
・洗い場床面へのすのこ設置
車椅子を使用する場合は、洗い場と脱衣室の床面を同じ高さにしましょう。
一般的には100から150mm程度の段差です。
目安は5mm以下がよいでしょう。
段差をなくすと、浴室から水が染み出てきてしまうので浴室と脱衣所の間にクリーチングを設置します。クリーチングとは排水溝の上に設置する格子です。
格子の形状は扉に対して平行に走るものにします。縦に格子パイプのはしる物を使用するとパイプを伝って水が染み出てきたり、車椅子の車輪が挟まってしまうリスクがあります。
すのこを設置する方法は比較的容易ではありますが、浴槽が埋め込まれたような形状になるので、浴槽の出入り動作の確認が必要です。
スペースの確保
入浴動作に車椅子や、介助が必要な場合は
間口1600mm×奥行き1600mm(壁芯-芯間口1820mm×奥行き1820mm)
を確保しましょう。
また、洗い場のレイアウトは介助が必要な場合、浴槽の位置を間口正面にすると介助者が動きやすくなります。
車椅子未使用の場合
扉の形状
自立・杖歩行が可能な場合も引き戸かつ、アクリルなどの割れにくい製品を使います。
また自分で扉を開閉する場合、折れ戸を使うときは注意が必要です。手指の障害などがある場合は事前に動作確認をしましょう。
出入り口の段差、幅
開口部は付き添う介助者のスペースも考慮し、1200mmほど用意できるとよいでしょう。
段差は5mm以内を目安にします。
スペースの確保
入浴動作一連が可能な場合は
間口1200mm×奥行き1600mm(壁芯-芯間口1365mm×奥行き1820mm)
を確保しましょう。
浴室内を座位で移動する場合は
間口1600mm×奥行き1600mm(壁芯-芯間口1820mm×奥行き1820mm)
とるとよいでしょう。
注意するポイントは座位移動のときは褥瘡の予防にマットを敷くということです。
手すりの設置
手すりの設置はいくつかの目的があり行われます。
・扉の開閉
・出入り口の段差昇降
・洗い場の移動
・洗い場の立ち座り
・浴槽への出入り
・入浴姿勢の保持
・浴槽内立ち座り
これらは個別性が強いので入浴動作の流れを一連で確認し、手すりを組み合わせて設置しましょう。
浴槽の出入り
浴槽に出入りする動作によってもリフォームのポイントが変わってきます。その際の注意点は以下のとおりになります。
・浴槽への入り方
・浴槽の高さ
・浴槽の種類
浴槽へ歩行でそのまま入る場合は手すりを設置します。
手にしっかりと力が入る場合ならば縦の手すりでもよいですが、ADLにあわせて横型やL字型も検討します。
浴槽を跨いで入浴する場合は浴槽のスペースを考慮して座位を取れる式台を用意しましょう。座位の位置としては
・浴槽の上
・浴槽の長辺方向
・洗い場側
などが考えられます。
浴槽の上に座る場合はバスボードを使用しますので、バスボード設置の介助が必要になりやすいです。
座位で跨いで浴槽に入る場合は壁面に横手すりを設置してつかまりながら入浴します。
これらの入浴方法をとる場合、シャワー用の椅子を使う場合がありますが、椅子の高さは浴槽の高さと合わせるようにしましょう。
トイレのリフォーム
トイレ介助でまず考えなくてはならないのが便器へのアプローチ方向です。方向により介助者の動きが変わってきます。
アプローチ方法の確認
前方アプローチ
便器の正面からアプローチする場合は一般的な車椅子の全長1100mmが便器前面に必要です。トイレとあわせて1800mmの奥行きが必要となるでしょう。
側方アプローチ
側方に車椅子をつけるアプローチでの介助の場合間口1650mm×奥行き1650mm必要になります。便器の設置場所を入り口から車椅子を入れた場合直角になるように配置すると狭いトイレでもアプローチが可能になります。
横方アプローチ
便器とトイレを平行にアプローチする横方向アプローチですが、この場合便器の側方に800mm程度の幅を設けると介助がしやすいです。
これらのアプローチを動作や、身体状況を含めて確認するようにしましょう。
立ち座り動作の確認
立ち座りに不安が残る場合、手すりを取り付けるのが有効です。
手すりには縦、横、L字がありますので移動動作を考慮し位置を調整します。
立ち上がる動作を中心に考え、立ち上がるときに利き手が来るほうに手すりを設置します。
手すりの種類は金属よりも樹脂材、木製が手になじみ好ましいです。
位置は便器先端より200から300mm出た場所に先端が来るようにします。
縦の場合、高さは肩よりも100mm高い場所にくるようにします。
横手すりの長さは600mmくらいあるとよいでしょう。
介護リフォームにおける補助金制度
介護リフォームに補助金は出る?申請の方法
ご家族が要介護者となった場合、住宅改修に介護保険から住宅改修費用が支給されます。
支給額は20万円を限度額に住宅改修費の9割(一部高所得者は8割)で要介護の区分に限らず一定です。
要介護区分が重くなったときや、転居したときに限り例外的に再度20万円までの支給をうけることができます。
申請の方法は市区町村に事前申請となっています。
提出書類は以下です。
・支給申請書
・住宅改修が必要な理由書
・工事見積書
・住宅改修後の完成予定の状態がわかるもの(写真、図入り)
リフォーム費用の相場
以下が相場になります。
手すり:10万円未満
トイレ:10から20万円
浴室:20から30万円
玄関:20から30万円
まとめ
各事例や身体状況によって日々介護リフォームは必要な内容が変わってきます。その方の動作確認、身体状況、部屋の間取り、リフォーム費用を見据えて環境に適した介護リフォームを行っていくことが必要です。また、身体状況は日々変化しなかなか見分けるのは難しい部分もあると思います。地域の介護支援専門員の指導も仰ぎながら適切な介護リフォームを行っていきましょう。