人が亡くなると、役所への手続きや葬儀・埋葬、遺品整理や各種契約の解約・清算、遺産相続手続きなど、さまざまな手続きがあります。通常、これらは家族や親族が無償で行ってくれるのですが、身近に頼れる人がいない場合はどうなるのでしょうか。
例えば、任意後見契約を結んだ場合、自分が認知症になったときに財産の管理や介護サービスや医療を受けるための契約を代理してもらうことができます。しかし、自分が死んだ時点で契約が終了するため、死後の手続きについては依頼することができません。
介護サービスや委任契約(財産管理等委任契約)も同様で、生きている間だけのことです。
あるいは、遺言書を書いたとしても、遺言書が法的効力を持つのは財産の分与・処分の方法だけです。それ以外の事項については、単なるお願いということになり、必ずしも実現するとは限らないのです。
また、遺言書が開封されるのは葬儀が終わってひと段落したころ、あるいは四十九日が終わってからというのが一般的です。遺言書に葬儀や埋葬に関する希望を書いていても、実際には間に合わないことが多いのです。
そのような時に有効なのが「死後事務委任契約」です。特に一人暮らしの高齢者が増えている中で、死後事務契約が注目されるようになっています。
死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約とは、公共料金の契約解除などの手続きや葬儀、埋葬など自分が亡くなった後の事務を委託し、代理権を与える委任契約です。
契約ですから、委任者から委託された受任者は、その内容を実行しなければなりません。一方的なお願いとなる遺言や遺書と違い、安心して任せることができるのです。
依頼する相手は誰でもかまいません。信頼できる友人や知人でもいいですし、司法書士や弁護士に依頼することもできます。
委任する事務はどのようなものがあるか?
死後事務の内容には次のようなものがあります。死亡した直後から葬儀、埋葬までの内容がほぼ網羅されていることがわかると思います。これらの中から必要な事項を選択して契約するのが一般的です。
- 御遺体の引き取り
- 役所での諸手続き(火葬許可証の申請など)
- 健康保険・年金の資格抹消申請、運転免許証の返納
- 病院・介護施設等の清算手続き
- 葬儀に関する手続き
- 埋葬に関する手続き
- 住居引越し手続き
- 勤務先企業の退職手続き
- 住居内の遺品整理
- 公共料金解約清算の手続き
- 住民税・固定資産税の納税手続き
- SNSやメールアカウントなどの削除
- 関係者への死亡通知
なお、「死亡届」については届け出ができる人が以下のように法律で限定されています。
委任を依頼する相手が下記のいずれかの人でなければ、死後事務委任契約で死亡届の届け出は請け負えません。
・同居の親族
・その他の同居者
・家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人
・同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人及び任意後見人
死後事務委任契約の注意点
委任者に親族がいる場合、例えば葬儀や埋葬について親族の意向と異なるとトラブルになる可能性があります。死後事務委任契約を結ぶ際には、事前に親族と話をしておく必要があるでしょう。
また、死後事務委任契約で委託できるのは「事務手続き」です。相続人や受遺者への遺品・相続財産の引継事務は行えますが、相続の内容に関与することはできません。財産を誰に譲るかといった内容は遺言書に書きます。
死後事務委任契約は書面に契約内容を記載し、委任者と受任者がそれぞれ署名捺印することで成立します。できれば公正証書にしたほうが安心でしょう。
また、任意後見契約や財産管理委任契約、見守り契約と合わせて契約することで、生前のサポートから死亡後の手続きまで切れ目なく任せることが可能になり、より安心して任せることができるでしょう。