突然ですが仏壇にお供えはどのように飾っていますか。あまり何も考えずに並べている、という人も意外に多いのではないでしょうか。
先祖や故人を供養する時に1番大切なのは、供養する供養する気持ちですからあまり神経質になる必要はありませんが、しかしマメ知識として仏壇の飾り方を知っておいた方が、親戚が集まって法要をするときもスマートです。
特にその中でもわかりにくいのが「樒(しきみ)」の供え方です。
今回の記事では、仏壇にしきみを供える時の方法について解説します。
樒(しきみ)とは
そもそも「しきみ」と聞いてピンとこない人もいるのではないでしょうか。
樒とはいったいどのようなものなのでしょうか。
シキミ属の植物の葉っぱ
樒は、マツブサ科シキミ属シキミ科に分類される常緑の小高く育つ木の葉っぱのことです。
樒には花が咲きます。
白くて小さなかわいい花です。そして葉や枝から特徴的な香りを発するのが最大の特徴です。
ただし葉も実も何らかの理由で食べてしまうとかなり有毒なので気を付けましょう。特に実にはアニサチンという猛毒が含まれているので、少し食べただけで死んでしまいますから少し怖い感じがします。
しかしそのために虫がつかないので、年中青々と茂っています。
高さは10mほどに育ち、葉自体は1枚5~10cmで、非常にツヤがあって、少し厚いのが特徴です。
このように樒は見た目は派手さがなく、非常にシンプルな木であり、葉っぱです。
なぜ「しきみ」という名前なのかというといろいろな説がありますが、先ほど書いたように樒の実には毒性があるため、「悪しき実」と呼ばれていたものが、いつの時代からか「あ」が省かれて「しきみ」になったという説が有力です。
樒は仏壇に供えたり、お墓に供えたり、葬儀の時に玄関先に供えたりします。
そのため以前はどのお寺の境内にも1本は樒の木が植えられていました。
樒 を供える理由とは?
では樒はなぜ仏壇、お墓、葬儀時の玄関などに供えるのでしょうか。
遺体に動物を寄せ付けないため
樒が仏壇やお墓などに供えられるようになったのは、遺体を土葬するのが一般的だった江戸時代だと言われています。
土葬の最大の難敵は、野生の動物が遺体を掘り返して荒らしてしまうということでした、そのような動物の無法を防ぐために、毒があり動物が嫌がる香りを発する樒の葉っぱを土葬した上に挿して、動物を寄せ付けないようにした、というのがその始まりです。
仏教上で香りが重要視されるため
またそのような実際的な理由からだけではなく、仏教上の理由からも樒が用いられていると言います。
実は仏教の世界では香りは非常に重要な要素です。
たとえば仏壇やお墓には線香を供えますが、その理由は、亡くなった人や祖先の霊魂にとって最大のごちそうが良い香りだからです。
ですから樒に独特の香りがあるということが仏壇などに供えられている理由です。
なぜなら先ほど書いたように樒には非常に独特で強い香りがするので、そこに悪霊と遠ざける効果があるとされているからです。ですので、故人や祖先の食べ物としてではなく、悪霊を除ける香りとして樒が仏壇やお墓に供えられたわけです。
またその香りを生かして、葉を乾燥させ粉末にして抹香や線香などに使用することもあります。
仏壇以外に樒を使う場面
もともと樒は土葬の時代に供えられるようになったと書きましたが、それは火葬が基本になった戦後の時代でも続いています。
具体的に供える場所としては、通夜や告別式などの時に祭壇に供えたり、葬儀を行う家の玄関の両脇や葬儀会場の入り口に供えたりします。お墓の場合は供えるだけではなく、常に青々としているように、墓石の脇に植えるということもされて来ました。
さらに故人を火葬するまで安置しているその枕元に1本だけ飾るということもします。
あるいは今にもなくなりそうだという時に、くちびるに末期の水をつけますが、その際に箸の代わりに樒の葉を使う地域もあります。
さらに遺体を棺に納める際にも遺体の下に敷き詰めるということもします。
これは悪霊を祓うという理由の外に、遺体から出る臭いを樒の香りで打ち消す、という実際的な理由もあってのことでしょう。
また仏教ではお墓や仏壇、あるいは葬儀の祭壇に花を供えますが、一部の宗派や地域によっては花ではなく、樒自体を花の代わりに供えるということもします。
また樒は仏教だけではなく、神道でも「榊(さかき)」と同じように用いられてました。
神道において榊は「境木」のことで、祭事を行う空間を清浄にし、悪霊を防ぐ結界のために用いられてきました。
樒も榊と同様の用途として使われ来た歴史があります。現在でも京都市の愛宕神社などの神事では一般に神道で祭礼に使う榊でなく、しきみを使っています。
ただし榊と樒はどちらも常緑樹で葉の形や色などもよく似ているので間違えやすいという問題点があります。
仏教の際に使うのは榊ではなく、樒なので注意しましょう。
そもそも樒はシキミ科、榊はツバキ科なので、系統そのものが異なります。違いを見極めるには、葉の形がポイントです。
樒の葉は波をうったような形で、榊は平らな楕円形です。
樒 と仏教の歴史
このように樒は仏教では重要な植物なので、仏前草とも呼ばれています。
樒の原産地は不明ですが、仏教上は天竺、すなわちインドだと言われています。
これが中国に伝わり、高僧として有名で唐招提寺を創始した鑑真和上が、日本に来る時に持ち込んだとされています。
最初に仏教に用いたのはどうやら平安時代の人で真言宗の創始者である空海のようです。
空海が密教の儀式で、悪魔を祓ったり雨乞いの儀式をする時などに、使ったという記録が残されています。
樒の代表的な漢字は木へんに密教の密を書く「樒」ですか、そこにも樒が密教で用いられてきたという歴史が現れています。
仏壇に樒を供える宗派
先ほど一部の宗派では樒を花の代わりに供えると書きましたが、その代表的な宗派は、鎌倉時代に日蓮が創始した日蓮宗から分かれた日蓮正宗です。
日蓮正宗では仏壇や墓には生花は供えず樒だけを供えます。
また平安時代に親鸞聖人が創始した浄土真宗でも、花瓶に水を入れ、そこには生花ではなく樒を挿して、仏壇に供えます。
樒の扱い方
では樒はどのように扱ったらよいのでしょうか。昔は寺院などの庭に1本は生えていたと書きましたが、家庭で樒を用意する場合にはどうしたらよいのでしょうか。
樒はどこで買う?スーパーでも売っている?
まず樒はどこで買うことができるのでしょうか。
榊は神社に供えるための必需品なので、生花店だけでなく、スーパーやホームセンターなどは購入することができます。しかし、榊に比べると手に入りにくいでしょう。
確実な入手方法は、通販や葬儀社、仏具店などで購入するということです。
樒は「もち」が良いので、樒を仏壇のお供えに使うような宗派の家の場合は、通販でまとめて購入して、バケツなどに水を張り、そこに樒を入れておけば大丈夫です。
樒の飾り方
樒はどのように飾ったらよいのでしょうか。
仏壇に供える場合
樒を仏壇に供える宗派の場合は、花と同様に扱えばよいでしょう。
花瓶に水を張り、そこに樒を挿して、仏壇の左右に供えれば大丈夫です。
ただし、浄土真宗の場合、樒は花ではなく水の代わりにお供えします。
浄土真宗の教義上、故人は亡くなったらすぐに浄土に行き、浄土には八功徳水(はっくどくすい)という水があふれているため、故人は飲み物に困らないということになっています。したがって、水はお供えしません。
水の代わりに樒をお供えする場合は、華瓶(けびょう)と言われる花立のような仏具に水を張り、そこに差します。
関西の葬儀の場合
それ以外に樒を用いるのは、主には関西地方の葬儀です。
関西地方で葬儀を行う場合は、門樒(かどしきみ)といって樒を葬儀を行う寺や自宅の門前、あるいは葬儀会場の入口の左右に、1本づつの計2本を飾ります。
さらには祭壇の両脇後ろに飾り、これを二天樒(にてんしきみ)と言います。これらの4本の樒によって、葬儀会場は囲まれることになります。すると樒の効果によって、葬儀会場に結界が張られ、悪霊が寄り付かなくなるのです。
また、同じく関西地方では、葬儀に参列者から花や花輪を供えてもらう代わりに、樒を贈ってもらいます。
その樒は葬儀会場の内や外に並べます。花を供えること自体はタブーではありませんが、関西地方では花よりも樒のほうが丁寧なお供えだとされているので、知っておいたほうが良いでしょう。
ただし樒をたくさん飾るとかなりスペースを取るので、最近は実際の樒の代わりに、紙に名前を書いて使う「紙樒」や板に名前を書く「板樒」を贈ることが一般的になっています。
関西地方の風習を知らずに葬儀会場に行って、初めてその風習を知った場合でも、葬儀会場の受付で一定の金額を納めれば、その場で紙や木の板に名前を書いて樒を作ってくれ、供えてくれますので安心してください。ただし地域によっては板樒、紙樒の風習が無い場合もあるので、要注意です。
枕飾りに使う場合
また先ほどの少し書きましたが、故人を自宅などで安置する時に、枕飾りとして樒を用意します。樒は「一本花」と言って枝の1本だけを花瓶に入れて供えます。
なぜ1本だけなのかということ、いろいろな説がありますが、釈迦の弟子である、大迦葉(だいかしょうが)という人が、花を1本だけ持って歩いてくる僧侶と話している時に釈迦の亡くなったことを知り、その花を1本持ったまま駆け付けた、ということが仏教上では言われています。
まとめ
樒を仏壇に供えるのは、日蓮正宗と浄土真宗です。
日蓮正宗は花の代わりに樒を供えますが、浄土真宗では水の代わりに樒を供えるので、華と樒のどちらも備えます。
樒は仏壇に限らず仏事で重要な植物とされ、「仏前草」とも呼ばれます。
お葬式の際も樒を見ることがあるかもしれません。
ただし本文でも触れたように、少し手に入りにくいので、その点は注意しましょう。