昨今、孤独死という言葉がニュースなどでよく聞かれるようになりました。孤独死ということは、身寄りがなく、弔ってくれる家族が居ない可能性が高いことを指しています。この記事では、身寄りがない人がもし亡くなったとしたら、どういう流れが発生するのかといった点を解説していきます。
孤独死とは?
孤独死とは、一人暮らしをしているいわゆる独居老人(死別などを含んだ独身の老人)が、だれにも看取られることなくアパートなど住居内で亡くなっている状態を指します。
老衰で亡くなるケースもありますが、もともと患っていた疾患によるものや、自殺によるものも少なくないようです。亡くなって以後、数日以上経過してから家族や大家によって発見されることが多く、死亡が発覚するまで時間を要することがほとんどです。
定年退職者や生活保護を受給しているため定職に就いていなかったり、親族が居ても遠方にしか居ないといったような、近況を周囲に知らせる機会がないためです。
また近年は、隣近所の付き合いというのもかなり希薄になりました。連日顔を合わせていた人が急に居なくなったとしても、その人の家にまで確認に行くというプロセスが起こりにくい社会情勢であることも理由の一つと考えられます。
身寄りがない人が死んだらどうなる?
さまざまなケースが考えられますが、基本的に捉えておきたいのはすぐに火葬される可能性が高い、ということです。
近隣の住民の方や、なんらかのコミュニティで交友関係を持っている人ならば孤独死してしまった場合でも近隣住民の方が喪主を務めて葬儀を行ってくれるケースは在り得ます。その場合、もし喪主の方が何らかの費用を拠出したときには、相続財産管理人の管轄下でかかった費用の返金を受けることも可能です。
しかし、孤独死の多くは家族もいなければ、近隣とのコミュニケーションも図っていないケースが多くあります。生活保護を受給しながら、細々と生活している方も多いのです。周囲に気づかれることなく、長期間が経過してから発見されるため、なかには白骨化してから事態が発覚することもあります。
遺族がいないことが判明した場合には、法令に基づいて死亡した地域の市町村長が喪主となって埋葬や火葬を行います。前述した、すぐに火葬されるケースというのはこういった場合です。
身寄りのない孤独死の場合は、遺骨や生前に収集していた遺品などに関しても引き取り手がいないことがほとんどです。5年ほど保管されたのち、無縁塚と呼ばれる親戚縁者が居ない方々が埋葬されるお墓に入ることになります。
身寄りのない人の相続はどうなる?
身寄りのない人が亡くなった場合、財産の相続はどのようになるのでしょうか。
相続はどう処理される?
もし孤独死した方に家族が居ることがわかれば、法令に基づき相続が行われますが、身寄りのない方が亡くなった場合は、相続財産法人と呼ばれる団体が管理することになります。
相続人が存在しない可能性があるとき、家庭裁判所の裁量において相続財産管理人の選任が行われます。もし、故人に借金があるなど債権者が存在する場合には、血縁がなくとも選任される可能性が高いです。相続財産管理人を選任してからは、およそ2か月ほど受遺者に対して公告を行います。
その2か月間を経て、相続人が現れないときはさらに6か月間、相続人を捜索する公告を行います。この期間内に相続人が名乗り出ない場合、相続人は相続する権利を失い、且つ遺品は国庫に納められることになるのです。
つまり、血縁関係のなかで相続人がいないとなれば、何らかの債権を請求できる存在にその権利が移りますが、手を挙げずにいるとその権利すらも無くなり、最終的には国のものになる、ということですね。
もし、特別縁故者(内縁の妻や個人の看護に注力していた存在)がいれば、家庭裁判所の認可を受けて相続財産を分与し、特別縁故者の相続分と国庫に納められる分との二つにわかれることになります。
もし遺言書があったら?
先ほども述べた通り、故人に相続人が居ない場合は遺品や財産は国庫に納められることになります。特別縁故者に財産の相続が認められるのは、故人の遺した遺言書の内容によって決まる場合がほとんどです。
遺言書の書式はいくつか種類がありますが、様式を守られていない場合、法的に無効となるケースがあるため、実際に作成する場合には専門家のアドバイスを受けながら作成するのが良いでしょう。
身寄りがない人のお墓は?
身寄りのない人が亡くなった場合は、自治体の無縁塚(むえんづか)、あるいは合祀墓(ごうしぼ)と呼ばれるお墓に納骨されます。
合祀墓とは、血縁関係なく複数の人が一緒くたに埋葬される大きなお墓です。
無縁塚とは、合祀墓のうち、供養が保証されないお墓です。
なお、自治体の合祀墓でなければほとんどの場合で、永代供養(管理者であるお寺が存続する限り供養してくれる制度)がついています。
もし、身寄りはいないけれど無縁塚に入ることに抵抗を感じる方がいるようであれば、事前の準備がおすすめです。終活とよばれる生前整理の一環で、自分自身の埋葬方法をあらかじめ決めておくことができるので、気になる方は準備を進めておきましょう。
生活保護受給者の場合、葬儀は自己負担なしで行うことも可能です。自分に万一のことがあった時に備えて、エンディングノートなどを作成し希望を書き留めておきましょう。
生前にやっておくべきこと
身寄りのない人が特に知っておきたい終活でできることを紹介します。
不安を払しょくするための「終活」
孤独死の懸念がある方にとって、いまのうちから取り組める不安を取り除く活動が「終活」です。終活は、最近脚光を浴びている「人生を終えるための活動」で、残りの人生に不安を感じている方にとっては、非常にメリットのある活動と言えます。
終活では、自分の死後をどう処理してほしいかといった内容を明記するエンディングノートの作成や、財産分与に関わる遺言書の作成などが含まれます。孤独死の不安を抱えている方であれば、なおのことこの「終活」をすすめて徐々にでも不安を減らしていくことがおすすめです。
前述していますが、無縁墓には入りたくないといった要望や、散骨してほしいといった供養の方法も希望を書き留めておけるので、エンディングノートは独居老人の方にとって非常に有用なツールのひとつです。
遺言書についても、国庫に納められたくないものがあったり、特別縁者の存在があるのであれば、用意したほうが良いでしょう。
ここ最近、流行語として注目を浴びたことで準備をする方が増えてきているのが終活です。早すぎる、といったことはありません。元気に身体が動くうちに、少しずつ準備をすすめていくことをおすすめします。
生前契約
生前契約とは、自分の死後に行われる手続きについて、生前のうちに行っておくことを指します。
例えば葬儀の準備についてです。
葬儀を経験している方ならイメージしやすいと思いますが、葬儀というのは思っているよりも金銭的な負担が大きく、遺族が悲しみの中で進めなければならないという精神的な負担もかけてしまいます。生前契約は、遺族に負担をかけたくないと考える方や、孤独死が懸念される独居老人の方にとってもメリットがある終活の一つなのです。
このように、生前契約は死後の手続きをスムーズにすることに加え、事前に準備することによって自身の精神的な不安を軽減する効果も期待できます。
生前契約に関わる契約や書類
終活でできる死後のための契約や書類について解説します。
死後事務委任契約
自分の死後に発生するさまざまな事務手続きを一切委任する、という契約です。
高齢で一人暮らしをしている方の場合、身寄りがなく死後の処理を誰が行ってくれるのか不安に思うこともあると思います。同居しているか否かに関わらず、家族が居れば死後の事務的な手続きは家族が行えますが、身寄りのない方の場合はそうはいきません。そこで死後事務委任契約を結び、自分の死後、その手続きを代行してくれる人を決めておくのです。
葬儀そのものの手配や永代供養、保険の手続きなどさまざまな事務処理が必要になりますので、万一の際に備えて準備を進めておきましょう。
財産管理委任契約
読んで字のごとく、財産の管理一切を委任者に任せるために締結する契約です。
これを結ぶと、原則財産の管理は委任者にしかできず、第三者による勝手な財産の処分や使用を防ぐメリットがあります。身体は不自由であっても、判断能力は有しているという場合、銀行や役所に思い通りに訪問できないケースが発生し得ます。財産管理委任が済んでいれば、本人の代理として委任者が手続きを行うことができるのもこの契約の強みです。
尊厳死宣言書
万一の場合、延命措置を希望しないことを主張するための書類です。尊厳死とは、延命措置を断って自然死を受け入れることであり、医師による薬物投与で死期を早める安楽死とは根本的に違っています。
過剰な延命措置を行わず、人として尊厳をもって死を迎えるためのもので、最近では遺言書と併せて作成する方も増えているんだとか。
遺言書
自分の死後、財産をどう分配してほしいかを相続人に伝えるための書類です。遺言書がない場合、法定相続人に対して規定に則った分配が行われますが、遺言書が存在する場合にはそちらの内容に則して分配が行われます。
ただし、あくまでも正式な様式に則って作成されているものが効力を発揮し、それ以外のものは無効とされてしまうケースがありますので、作成する際は専門家のアドバイスを受けながら作成しましょう。
これに似たものでエンディングノートというツールがあります。こちらは終活でよく用いられるものですが、遺言書とは違い法的な効力は一切持っていませんので、注意しましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は、身寄りのない方が万一、亡くなってしまった場合についてや、亡くなる前に準備できることについてまとめてみました。
終活が流行を見せている昨今、身寄りの有無に関わらず、自らの死というものに向き合っている高齢者は増加傾向にあります。今回の記事が、皆さんの今後の人生に何か良い影響を与えられていれば、幸いです。